私的録音補償金改正私案 その1
前回はCulture Firstという標語の馬鹿馬鹿しさを嘆いたのでしたが、今日「CONTENT'S FUTURE ポストYouTube時代のクリエイティビティ」での椎名和夫さんの談話などを読んでいたら、椎名さんも可哀想になあ(笑)と改めて思ってしまいました。あ~、政治の世界ってイヤですねえ、ホント。どんないい人でも嫌な思いをせざるをえないようになってるんですねえ。
それはそれとして、この本を読んでいたらふと思いついた案があるので備忘録代わりに書いておきます。まあ既に同じ事を言っていた方もあるとは思いますが、最近自分で得た情報も合わせてのことですので・・・。
昨年11月に私的録音録画小委員会中間整理に関するパブリックコメントを書くに当たって、自分でも真面目に違法サイトってどこにあるの?、どんな感じなの?、というのを調べ始めてみました。何しろOiNK閉鎖されるというニュースも何のことだか分からなかったくらいで・・・(笑)。着うたフルなんてキャンペーンで無料の曲を1曲ダウンロードしてみたことがあるくらいで全然使ってませんし、実はiPodも持っていません(笑)。上位モデルでも所詮記憶容量が足りないのです(爆)。もう全然中間整理で想定されてるユーザー層から外れてますね・・・。でもそれは、レコード輸入権問題に強く関心を寄せた音楽ファンには洋楽ファンが多く、還流防止対象となる邦楽を全然聴いてない人ばっかりだったというのにも似ております。自分には関係なくても、音楽ファンとしては大問題ですからね。やっぱり黙っているわけにはいきません。
さて、それはともかく、私は「OiNKというサービスがなくなったとして、そこにいた人々はどうやって次の行き場を探すだろうか?」という想定の下、Googleでいろいろ検索してみました。う~ん、結局オープンなTorrentサイトがある他は、招待制サイトが複数分散して存在しているらしいことは分かったのですが、どうすれば招待してもらえるのかは分からず・・・(^_^;。その他は、blogでいろいろな音楽を紹介しているところもあることを知りました。
そうしたところを覗いていて、一つ面白いことに気がつきました。音質に関するやり取りです。
音源をアップロードしている人の中には可逆圧縮形式やMP3 320Kなどの高音質を好む人もいれば、MP3 128Kと決めている人もいるようです。つまり、blogで音楽を紹介している人は「あくまで試聴目的である。高品質なものが欲しければCDを買え」と書いていたりします。もちろん、音源ファイルを無断で公開サーバーにアップロードしておくことはその国の法律によっては違法と思われるのですが「MP3 128Kなんて低品質のファイルはCDの代わりには到底ならない。よってフェアユースだ」と考えている人もいるようです。
このあたりは、同情的に考えても、ちょっとユーザーとしても身勝手な考え方だろう(笑)とは思うのですが、アーティストに迷惑を掛けたいと思っている人はいないらしい、というのが面白いところです。第三者からだとどう文句を付けられても反論するのに、アーティストから連絡が来ると丁重なコメント付きで音源ファイルを削除してたりもします。実際アーティストサイトやレコードショップへのリンクが一緒にあることも多いです。結局、愛情が暴走しすぎていて(笑)、自分なりにアーティストをサポートするんだ!、レコード会社なんかには任せておけん!、という音楽ファンが一杯いることが分かりました(笑)。世界各国、とにかくレコード会社はなぜか音楽ファンにはすごく憎まれているみたいですね(笑)。
Music Blogと自称しているサイトの多くは、現在入手不可能な音源の紹介にもの凄い情熱を注いでいます。そしてこんな素晴らしい音源を廃盤にしておくとは、レコード会社は経済至上主義に毒されておる!、と怒っているわけです(笑)。なるほど。経済至上主義を廃するCulture Firstとはこういうものか、と思いたくなるような愛情表現です(笑)。実際20~50年前の廃盤音源がネットで共有されたとして、そこに経済的損失は発生しているのかどうかは真剣に検討されていいかも知れません。現行著作権法上は違反になりますが・・・。
さて、ここまでレコード会社とリスナーがお互いに憎み合うようになってしまうと、実は迷惑を被っているのは誰よりもアーティストでしょう。クリエイター尊重を考えるのであれば、リスナーと隣接権者の間で、何かしら妥協案を見つけなければなりません。
そしてふと思いついたのが・・・
1.現在流通している音楽作品については、MP3 128K以下のビットレートであれば、無償で提供する限りはネット上での公衆送信を合法とする
2.現在流通していない音楽作品については、無償で提供する限りはネット上での公衆送信を合法とする
3.アナログメディア(レコード、カセット、8トラック、オープンリールなど)からデジタル化したものは、ビットレートに関わらず、無償で提供する限りはネット上での公衆送信を合法とする
というあたりに可能性がないか、ということです。弁護士の小倉さんが以前に同じような提案をされていた気がします。
MP3 128Kというのは、現在ではかなりバカにされているレベルの低ビットレートであると言えます。それはアップロードサイトでも「MP3 320K」などという、そこまでしたらMP3にしておく意味があるのだろうか?、というような偏執的高ビットレートのファイルが存在することからも伺えるのではないでしょうか。またMusic Blogで「すみません。128Kです」などというコメントがあることも、128Kとは謝罪に値する低レベルである、という認識があるからでしょう。つまり、リスナーは音質を気にしているということに他なりません。そしてMP3である間は、どう頑張ってもCDに劣るのです。
アナログソース起こしのものは、全面的にOKにしていいのではないかと思います。なぜなら、CD化された盤のほとんどはリマスターされているはずで、LPとは音が違うはずだからです。さらに言えば、アナログ起こしの音源が出回ることで、多くのユーザーがリマスター盤の価値を初めて正しく認識できると考えられますし、マイナーな盤の再発においてはプロモーションも兼ねてくれるでしょう。何しろ、オリジナル盤を持っているほどのファンがこぞって「再発されたぞ! マストアイテム! 買え!」って騒いでくれるでしょうから(笑)。
この案の弱点は、カタログ上生きているかどうかを調べるのが面倒なことと、再発された時の扱いをどうするか、というあたりでしょうか。でもそれは音楽業界の協力があれば大丈夫でしょう。レコード番号を入力すれば、カタログ上生きているかどうか調べるサイトを作るのは難しくないでしょう。またWebサービスとしても実装すれば、再発時にすぐ各blogで分かるような仕組みも技術的には難しくないと思います。ただ、まだ自主製作盤の問題は残るのですけれどね。レコード番号がないものもあるでしょうしねえ・・・。
まあそういう問題はあるにせよ、これはリスナー、レコード会社の双方にとってメリットがあるのではないでしょうか? レコード会社はコアなリスナー多数をマーケッターとして活用できます。リスナーは、自分がアーティストのサポーターになれることで喜びます。そしてアーティストは、仲直りしたリスナーとレコード会社というパートナーを取り戻した上で、多数の音楽ファンによるパブリシティを無償で手に入れることが出来ます。リスナーは無償で広報活動をしてくれるのですから、こうした活動は補償金対象外なのはもちろんです。
そして肝心要の点。
「MP3 128Kとは、辛うじて許せるレベルの低音質であって、それで満足している内は音楽ビギナーである。最低CD、出来ればSACD、理想的にはアナログ盤で聴くようになっていくのがカッコいいんだ!」という価値観を生み出し広めること。そして私的録音補償金は、この価値観を広める活動に多くを投入すること。ファイルの入手によって楽曲を気に入ったリスナーが愛玩出来るようなパッケージを製作すること。
それともちろん、こうした公衆送信は対価無償であることが大前提です。有償で提供したとたんにそれは海賊版になってしまうからです。すぐ取り締まりなさい!(笑)
ところで、音楽配信が普通になっていくと、パッケージメディアはなくなるのでは?、という意見もありますが、私はそう思いません。なぜなら、クリエイターは自分の作品を固定されたメディアで残したいと切に願うだろうからです。単なる電子情報ではなく、紙やビニールやプラスチックに固定することで、初めて自分の作品が世に残せた、という実感を持てるのではないでしょうか。
さて、この案の問題点。
現在の音楽配信ビジネスとはバッティングする点(笑)。特に今の携帯着うたみたいに、既にかなり悪い音質のファイルを高額で売っていて、それがそこそこ売れてしまっている現状に引きずられてしまうと、なかなか切り替えが出来ないだろうと思います。多分ポイントは品質でしょう。MP3で言うなら256K以上を標準とすること。DRMを放棄すること(これがあると不便であるが故に低ビットレートファイルに負けるでしょう)。そして何よりは、配信オンリーの独自音源を増やすこと(レコミュニにおけるライブ音源のような)。独自音源はセッション風景でもいいし(って、最近のJ-Popだとスタジオセッション自体がないか(笑))、リミックスでもいいでしょう。でも出来ればライブ音源とかの方がファンにとっては嬉しいかも。
いや、やはり4番目のルールとして、
4.ただし、消費者が公衆送信可能にしてよいのはパッケージメディアから作成したファイルのみとする。ファイル自体を販売している配信サービスから得たファイルを公衆送信することは禁止する。
というのが必要かも知れません。
レコミュニという音楽配信サービスではDRMなしのMP3を配信していますが、ファイルには購入したユーザーごとの識別子が埋め込まれているそうです。つまり、ネットに流出すれば発生源は特定できるという仕組みにしてあるわけで、それだけで十分ではないでしょうか?
さて、年に数百枚レコード・CDを買うようになってしまった私としては、「知っている音楽が増えれば増えるほど、購入候補となる盤が増えるため、結果購入数が増える」というのが真理であろうと思います。万単位の盤と数十万単位の楽曲、そして数千単位のアーティストを知るリスナーと、知っているアーティストが100に満たないリスナーでは購入候補となる盤の数が桁違いとなるでしょう。ですから、もしこの案のような改正がされれば、音楽ファンの数は増え、また一人一人の購入するメディアの数は増えるでしょう。
音楽業界としての課題は、バブル期にさぼりまくってきたリスナーの育成作業にあると私はみています。70年代には異様なまでに充実したライナーノーツや無料小冊子、FM番組など多くの啓蒙活動の結果多くの音楽ファンやレコードコレクターを育ててきた日本のレコード会社は、放っておいても売れるCD時代にそうした努力を怠り過ぎたのです。
もしもこんな風に著作権法を改正し、その時代に育った音楽ファンが直接音楽を紹介することを可能にしてくれるなら、レコード会社は再びリスナーと手を結ぶことが出来るのではないでしょうか。と長くなりましたが、「CONTENT'S FUTURE ポストYouTube時代のクリエイティビティ」に出てくる椎名さんの話を読んでいて思いついたのはこんなことです。Culture Firstの会見記事を見ていると殴りたくなる(笑)椎名さんなんですが、この本を読むと仲良くしたくなるんですよ(笑)。それでこんなことを考えてみたのです。どうでしょう? なんとか実現していただけないでしょうか?
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