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2008.05.29

椎名さんには恨みはないが・・・

「消費者のみが負担」を消費者は本当に望んでいるのか,補償金制度とコピーワンス問題で権利者会議が会見(ITpro
「ダビング10を人質になどしていない」「メーカーは“ちゃぶ台返し”だ」 権利者団体が会見 (1/2)ITmedia
「ダビング10を人質にはしていない」権利者側が補償金問題で会見INTERNET Watch
「ダビング10」開始日確定できず 補償金で対立深く日本経済新聞
「ダビング10を人質にしてはいない」。権利者団体会見AV Watch

権利者団体の(とついひとまとめにしてしまいがちだが、正式には実演家著作隣接権センターの)椎名和夫さんは、元ムーンライダーズのメンバーでもあって、CONTENT'S FUTURE ポストYouTube時代のクリエイティビティという対談本を読んでみれば、ほとんどの音楽ファンは椎名さんに好意を持つことだろうと私は思うのだ。それでも、今回の記者会見の記事を読むと、何点かはどうしてもつっこみたくなってしまう。

ここでは、特に気になった点のみについてコメントすることにしたい。

【問】HDDを内蔵する「一体型機器」は、「汎用機」との区別がつきにくく、いずれは「汎用機」まで指定につながるのでは?

 2年の議論の結果、権利者はパソコンを対象に含めないことに合意した。これは権利者サイドの最大の譲歩。今、録音/録画メディアは、MDやDVDから HDDに移行しつつあり、「一体型の機器」を制度の対象にしなければ、補償金の「実体」が生まれない。メディアは「対象機器の拡大」と書くが、そうではな く「対象機器のシフト」が正しい。(Ascii)

・まず、PCを対象に含めないことに同意したことを「譲歩」と呼ぶのはさすがに誤りだろう。汎用機器はそもそも対象になり得ないのであって、譲歩があったから対象にならなかったわけではないのだ。
・MDやDVDとHDDの一番の違いはなんだろうか? HDDは配布・拡散できない、という点ではないだろうか。これはiPodについても同じである。MDは友人に渡せるが、iPodごと友人にあげるなんてことはないだろう。また仮にiPodを貸したとしても、そこから音楽ファイルのコピーが取り出せるわけでもない。すなわち拡散しないのだ。この2つのメディアを一緒くたに扱うのは本来無理ではないだろうか?

 そもそもなぜ補償金制度が必要なのかについては、椎名氏の発言をまとめると「メーカーが販売する機器や媒体が、ネットなどにおける無償コンテンツの発生、流通を支えていることに疑いはない。補償金制度は、そうした機器や媒体を販売することでメーカーが得た莫大な利益の一部を権利者に還元するもの」ということになる。(Ascii)
・私的録音補償金のそもそもが、「儲けているメーカーの利益を権利者に還元すること」だったっけ????、という大問題を含んでいる。これはすでに、現行著作権法に規定されている補償金の概念の先を行っているような気がする・・・・。平たく言えば間違い。冷たく言えばウソ。



椎名氏 補償金制度による対応をやめて、契約と保護技術による個別課金に委ねられるとすれば、それこそ正真正銘の「消
費者が負担する構造」が生まれて、メーカーがその「負担のサイクル」から未来永劫、開放されるだけのこと。その事実関係に消費者は気が付いていないように
思われる。




 メーカーが無償コンテンツの発生、流通を支えて上げてきた利益から、消費者とともに私的複製のコストを払ってきた。その金を消費者だけが負担することになるのは、本当に消費者が望んでいることなのか──。それを「消費者に知ってほしい」と椎名氏は訴える。
(Ascii)

・ここもなんだか随分怪しい。まず現在の補償金はMD・音楽用CD-Rなどのメディアにも含まれており、払っているのは消費者である。その証拠に、この補償金制度には(実際は機能不全な)返還制度が存在するが、返還請求を行えるのはメディア購入者、すなわち消費者である。返還を受けられる人が払った人のはずだ、と考えるのはごく自然ではないだろうか?


次に、JASRAC菅原理事の発言を取り上げてみよう。

この調査でレコーダの利用の実態はほとんはタイムシフトであることが明らかになっている。ということは機械上の問題がなければ多くのユーザーにとってコピーワンスでよかった話だったことがわかる。(ITPro)
・上記発言はJEITAの行ったアンケートに触れてのもの。
 JEITAによる意識調査(発表資料1発表資料2

 この発言を読んで思い出したのは、「今は鈍行しか止まらない駅に急行を止める必要があるかどうかの調査」というエピソードを紹介したワインバーグ著のシステム開発に関する本のことだった。少し説明すると・・・

現在は鈍行列車しか止まらない駅に、急行も止めてほしいという住民の要望があった。そこで調査員が駅に1日滞在し、急行を待っている乗客の数を調べてみた。すると、該当の駅で急行を待っている人は一日経っても一人もいなかったので、「急行に対する需要はなし」という結論となった。
デジタル放送にはコピーワンスによる制約があり、アナログTVをビデオに録画していた時のように、思うような保存・編集が行えない。そこで必然的にタイムシフトのみの利用となる。そこでもっと自由な利用を望むユーザーの声が大きくなった。そこで現状の利用形態を調べてみると、タイムシフトのみに使用しているユーザーがほとんどだった、と。これをどう解釈するか、という問題である。

もちろん、「タイムシフトがほとんどということは、コピーワンスで良かったのだ」と考えることも出来るかも知れない。ただその場合、「なぜコピーワンスの評判が悪かったのか?」という原因を見誤る結果となるだろう。コピーワンス制限があるんじゃタイムシフトくらいにしか使えない、というのが本当のところではないのだろうか。急行が止まらない駅で急行を待つ客なんて存在しないのだ。

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