要は海外文学豊穣の時代なのか
大きめの書店に行って海外文学の棚を眺めてみると、こちらも随分興味深いものが並んでいる。前回はちょっとだけ気になったSFジャンルの本について書き留めておいたのだが、気がつけばSFのみならず、文学ジャンルでも豊穣の時代を迎えているような気がしてきた。
緑のヴェール ジェフリー・フォード (著)
「白い果実」「記憶の書」に続く3部作完結編。幻想的というか寓話的というか、ファンタジーのようでもあり、SFのようでもある物語。なかなか一筋縄ではいかない作者なのであります。
白い果実 ジェフリー フォード (著)
記憶の書 ジェフリー・フォード (著)
歌姫コンシュエロ 上 愛と冒険の旅 (ジョルジュ・サンドセレクション 3)
歌姫コンシュエロ 下 愛と冒険の旅 (ジョルジュ・サンドセレクション 4)
全9巻+別冊1で刊行されるジョルジュ・サンドセレクションもいよいよ大詰め。書簡集以外の小説8冊はこれで出揃った。これまで未訳の作品を中心に選ばれた作品が大半を占めている。本作はショパンとの交流を元に生み出された、女性声楽家を主人公とした作品で、実はサンドの最重要作だという。「愛の妖精」だけが紹介されてきたサンドの作家像を大きく変えるセレクションだと思う。
私は、第一回配本分だったセレクション2の「スピリディオン—物欲の世界から精神性の世界へ ジョルジュ・サンドセレクション 2」をなにげなく読んでぶっとんで以来このシリーズは続けて購入している。豊かな物語性と寓話性をもつ作品が多く、実に味わい深いのである。
アブサロム、アブサロム!(世界文学全集1-9) ウィリアム・フォークナー (著)
実はしばらく前にヘンリー・ジェイムスを読んでみたら、これが思いのほか面白く、せっかくなので改めてフォークナーも読んでみようかと「Sound And Fury」とか「Absalom, Absalom!」などを原書で買ってみたのであった。特に「難解」と言われるフォークナーという作家はどういう英語を書いたのか、実際に確認してみたい、という思いが強かったのだが・・・。筒井康隆がエッセイで、「アブサロム、アブサロム!」が日本で出たときすごいすごいと夢中で読んだ、と書いていたのもずっと気になっていた。
一度は絶滅したと信じられていた世界文学全集という形の出版物が、つい最近息を吹き返しているという現象も興味深い。何かの雑誌で「読んでびっくりのトンデモ小説!」と絶賛されていたのが次に紹介する「巨匠とマルガリータ」。
巨匠とマルガリータ (世界文学全集 1-5) ミハイル・A・ブルガーコフ (著)
SF、ミステリ、コミック、演劇、さまざまなジャンルの魅力が混淆するシュールでリアルな大長編。ローリング・ストーンズ「悪魔を憐れむ歌」にインスピレーションを与え、20世紀最高のロシア語文学と評される究極の奇想小説いや、まずもって私は「奇想小説」と言われただけで手が伸びてしまう方だし、実はずっと昔から翻訳が存在していたこの小説を知らなかったというのも負い目になり、これは読まねば!、とちょっと張り切っているわけで・・・。
活字離れ、ケータイ小説などの潮流とは別に、「読んで飽きない、面白さ保証付き」の古典作品が改めて脚光を浴びているようにも思う。「カラマーゾフの兄弟」がせっかくヒットしたのだから、面白い小説がブームになってもいいではないか。本というのは一見高いように思えても、時間あたり単価は極めて安い娯楽でもある。間もなく来るだろう大不況時代に向けて、熱中できる作品を見つけておくのは悪い考えではないだろう。
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